ディズニープラスで配信が開始していた「ノマドランド」。
映画放映当時から話題になっていたので気になっていた作品です。
ちょうど仕事も一区切りついたので観てみたのですが、スーッと体に染み入るお水のように入り込みやすい作品でした。わたしはとても好きです。
ノマドランドは現代そのものの姿を表した作品
ノマドランド(原題:Nomadland)は、会社の破綻とともに住む家を失い、バンとともに生活を送る現代の放浪生活を描いた作品です。
この題材、とても現代的で、日本でもありそうな風景に思いました。
正社員に就かず、短期の仕事をしながら生活する人は日本でも増えています。
現にわたしも正社員での働き方が合わず、フリーランスをしているので、”現代のノマド”と言っても過言ではありません。だからこそ、なんだかノマドランドは人ごとではないなと思ったのです。
現代のノマドを起用した”リアル”感
ノマドランドは、現代のノマドたちを実際に起用し、作品として収めたそうです。
俳優には出せないリアル感を覚えたのは、こういうことかと納得しました。
また、ノマドランドには普通の映画にあるようなラブシーンやアクションなど、大きな展開がないところもリアル。
日常生活って、地味ですよね。
その地味な部分がよく表れていてとても良かったです。
普通の映画を期待するとガッカリしてしまうかもしれませんが、リアル感ならノマドランドはなかなかのものではないでしょうか。
海外映画にしては、日本作品にありそうな作品だと思います。「かもめ食堂」なんかが好きな人にはハマるかもしれません。
リアルだからこそ心に刺さるものがある
ノマドランドは、主人公に感情移入するような作品でもないと思いました。
ラブストーリーのようにときめきがあるわけではないし(ないことはないけど)、アクションのようにドキドキハラハラがあるわけでもない。
だからこその日常リアル感は、何か心に刺さるものを感じました。
この作品では人と人の出会いにフォーカスしている場面が多いのですが、わたしが中でも特に好きだったのが、まだ若い少年と出会うシーンです。
タバコを吸っていたところに近寄ってきた少年は、再会したときに自身のことを少し話してくれます。彼には故郷に彼女がおり、手紙でやり取りをしていることを主人公に伝えると、詩を贈るといいとアドバイスを受けました。
この詩がとても美しかったので引用します。
君は夏の日よりもー
美しく 穏やかだ
風が5月のつぼみを散らし
夏の輝きはあっけなく終わる
太陽は時に照りつけ
かと思えば 暗く陰る
どんな美しいものも
いつか衰える
偶然か
自然の成り行きによって
だが 君の永遠の夏は
色あせず
美しさが失われることもない
ましてやー
死神が 君を
死の影に誘うこともない
君は永遠に詩の中に生きる
人が息をし 目が見えるかぎり
詩は生き続け
君に命を与え続ける
これは、主人公自身のための詩です。亡くなった夫と、そして家族と過ごす日々は思い出の中で生き続ける。
これぞノマドランドの伝えたかったテーマの一つなのだと思います。
映画館で観ておけば良かったと後悔した作品
ノマドランドは起承転結こそあまりないものの、ノマドたちのリアルな日常の一コマから何かを感じ、得ることのできる繊細な映画だと思いました。映像も音楽も美しくて、これは映画館で観ておけば良かったと後悔です。久しぶりに良い映画を観た。